《民法》制限行為能力者⑥「認めるの?取り消すの?」相手方ができる「催告」とその結論を押さえよう!

ここまで、制限行為能力者に焦点を当てて、

どういった類型があるのかについて記事にしてきました。

 

今回は視点を「取引の相手方」に向けて…

制限行為能力者と取引をした相手の方の保護について

行政書士試験で問われるポイントについて記事にしていきます!

 

 

 

相手方に認められた「催告権」とは

まずは条文を見てみましょう!

民法 第20条
① 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(略)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうか確答すべき旨の催告をすることができる。(以下略)

催告とは具体的に

「認めるの?取り消すの?どっちなんだい!」←なやかまきんにくん風に

と、制限行為能力者側に返事を求めることです。

 

例えば、未成年者が保護者の同意なく行った法律行為は取り消すことができます

できる」ということなので、取り消してもOKだし、取り消さずに契約を継続させるのもOKです。

これは社会経験に乏しい未成年者を財産被害から守るための制度ですが

これによって取引の相手側は不安定な立場に立たされることになります。

一応は有効に成立しているけれど、もしかしたら取消しを主張されて無かったことにされるかもしれません

(ちなみに未成年者側の取消の主張は一方的にできます)

 

そのため、この不安定な状態をガチッと安定させるために、相手方ができるのが「催告」です。

条文内にもありますが、1ヶ月以上の期間を設けるのが必要で

「取り消すかどうか、今週中に返事して。」

というようなせっかちはダメです。

 

 

行政書士試験で問われるポイント

試験において重要なポイントは、催告しても期間内に返事がなかった場合の結論です。

1ヶ月以上の考慮期間を設けて催告したものの、返事がもられなかった場合…

相手方は引き続き不安定な立場に立たされるのではなく、

返事をしない制限行為能力者側に代わって、民法が結論をだしてくれます。

それが、先ほどの民法第20条の続きにある、「みなし規定です。

 

この「みなし」規定は、「誰に」催告したかによってパターンが分かれています。

そこを試験でよく問われるので、パターンごとの結論をしっかりと押さえておきましょう!

 

 

元・制限行為能力者に催告→返答なしの場合

先ほどの民法20条1項の前半部分をまとめると、

  • 制限行為能力者の相手方が、
  • 制限行為能力者が行為能力者になった後(例・未成年者が18歳になって成人になった)
  • 1ヶ月以上の期間を決めて、
  • 追認するの?取消すの?と返答するよう請求できる

といった内容になります。

 

そして、続きの後半部分で「返答がない場合」が規定されています。

民法第20条
①(略)この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす

そうです、勝手に追認したものと扱われます。

(もちろん、条文内にもありますが、期限を過ぎてることが必要です!)

 

追認とは、文字の通り、追って(後々になって)認めることです。

追認の効果としては、もう取り消しができなくなります。

取消権の放棄」とも言い換えることができます。

 

そして「みなす」とありますが、これは

「真実はどうだか分からないけれど、法律関係を安定させるために、法の力を使って決めちゃいます!」

と、法律が勝手に決めてしまうことです

もう一つ似たような言葉に「推定する」というのがありますが、

両者の違いは「覆るかどうか」で、「みなす」の場合は、事実と違っていても覆りません。(強力!)

(「推定する」の場合は、事実を立証できれば覆るそうです)

 

なので、まとめると…

元・制限行為能力者の方に催告する→期限を過ぎても返事がない場合
民法の力を使って「追認した」ことにするので、もう取り消される心配がなくなる

ということになります。

 

元・制限行為能力者ということは、契約の善し悪しを判断できるはずなので

その上で返答せず無視するのは良くない…ということで、

相手方の保護に重きを置いたということですね。

 

 

保護者に催告→返答なしの場合

今度は民法第20条2項に規定されているパターンで、

制限行為能力者はまだそのままで、その保護者の方に催告をした場合です。

民法第20条
② 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が、同項の期間内に確答を発しないときでも、同項後段と同様とする。

ポイントは、「制限行為能力者が行為能力者とならない間に」というところです。

制限行為能力者が行為能力者となった後、保護者に催告しても無意味なので。

(というか、そもそも保護者という概念がなくなりますね!)

 

まだ未成年者である間に、その保護者に催告したものの一定期間を過ぎても返事がなかった場合は、

1項と同様に「追認したもの」とみなされます。

判断能力を持っているにも関わらず期間内に返事をしないのは落ち度があるので、

制限行為能力者側よりも、相手方を保護するということですね。

 

ちなみに「法定代理人、保佐人又は補助人」と、保佐人と補助人が法定代理人と区別されていますが、

この条文からも、保佐人と補助人は、別途審判を経なければ代理権を持たない、ということが読み取れますね。(^^)

 

「あれ?(被)保佐人と(被)補助人の区別が曖昧だぞ…?」という方はぜひ復習を♪

 

 

 

 

「保護者と相談してね」と被保佐人・被補助人に催告→返答なしの場合

今度は成年後見人や保佐人、補助人などの保護者に直接催告するのではなく、

被保佐人又は被補助人に対して、

「保佐人or補助人の方に、追認するかどうか相談して、返事してよ」

と催告する場合です。

条文ではこう規定されています。

民法第20条
④ 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第17条第1項の審判を受けた被補助人に対しては、第1項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす

今回は結論が変わって、「取り消したもの」とみなされます。

 

被保佐人や被補助人は、軽度の認知症の方や軽い知的障害をお持ちの方を想定して制度設計されています。

「日常生活に関することは大丈夫なんだけど…複雑な契約となると不安」

というような状態で、民法第13条(財産に関わる法律行為)の全て又は一部を、単独ではできないようになっています。

(単独でやっちゃった場合は取り消しができる、ということです。)

 

なので、いくら相手方から

「保佐人(or補助人)に追認するかどうか相談してきてよ」

と伝えても、もしかしたら相手方から言われたことをうっかり忘れてしまっているかもしれません。

その結果、期間が過ぎて追認したとみなされた=取り消しできなくなった、となると、

被補助人側や被保佐人側の方にとっては、酷な結果となります。

そもそも、財産被害から守る、という制度趣旨が成り立たなくなりますね。

 

なので今回は相手方の保護よりも、被補助人や被保佐人の方を保護する意味で、

「取り消したものとみなされる」結論となります。

 

 

 

余談:未成年者や成年被後見人に「相談してね」と催告した場合

先ほどの民法第20条第4項ですが、条文を読んで

「なんで被保佐人と被補助人だけなの?被成年後見人は?」

と思いませんでしたか?

 

未成年者や成年被後見人の方に、

「保護者の方と相談して返事ちょうだい」

と催告した場合、結論としてはどうもならないようです。

そもそも催告をした扱いにならない、ということでしょうか。

 

これは、根拠となる条文が別にあります。

民法第98条の2 意思表示の受領能力
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもって相手方に対抗することができない。(以下略)

ざっくり、大雑把に言うと…

未成年者や成年被後見人に催告などの意思表示をしたとしても

「え!私、催告したよね!?あなたに言ったよね!?」とは言えない、ということですね。

 

難しい言い方でいうと、未成年者や成年被後見人には「受領能力がない」と言うそうで、

なので未成年者に、保護者から追認を得るよう催告しても無駄だ、という結論になります。

…あまり頻出ポイントではないと思うので、余談です。(笑)

 

 

 

まとめ どっちを保護するべきか?を念頭に結論を覚えよう!

相手方が制限行為能力者側に催告したものの、返答がない場合の結論についてみてきました。

 

取消すこともできるし、取り消さずに取引を継続することもできる、という

制限行為能力者側に主導権を握られている形になる相手方ですが、

いつ取引が無かったことにされるか分からない、という不安定な立場にあります。

その相手方を保護するための権利が催告権です。

 

とはいえ、制限行為能力者の方を保護する必要もあります。

(むしろ、保護の必要性としては、こちらの方が高いですよね!)

そのため、催告権を行使して返答がなかった場合どうするか、

民法は「誰に」催告するかでパターン分けして結論を変えています。

 

元・制限行為能力者や、保護者の方に催告して返事が得られなかった場合…

取り消しできる行為の内容を理解できている方たちなので、

それなのに追認するかどうか返事をしないのは良くない!

ということで、この場合は相手方を保護して、追認=取り消しできない状態になります。

 

一方、被保佐人や被補助人に「保護者と相談して返事して」と催告して返事がなかった場合…

この場合は制限行為能力者側を保護するために、取り消したものとみなされる結論となります。

(制限行為能力者側にとって有利な取引だったか可能性もありますが、

そうじゃない可能性もあるので、何もなかった状態に戻した方が無難だろう、ということでしょうか。)

 

 

ちなみに、今回は「返事がなかった場合」を書いてきましたが、

もし被保佐人に催告をして「追認します」と返事があった場合、どうなると思いますか…?

法律行為を制限されている方が、「追認=取消権の放棄」という重大な決断を、単独で下して良いのでしょうか…!?

 

それはまた、「取消と追認」に関する別の記事にて、まとめてみたいと思います。

 

 

長くなりましたが、最後まで読んで下さり、ありがとうございました☆